【2017年一部更新】
以前の記事で、2016年の銀行法改正を皮切りに、近い将来日本でも金融ベンチャーの買収が盛んになり、本格的に金融×ITのトレンドが日本に広まるとの予想を立てました。
このような買収ブームとは別に、今日は「今後の日本の金融業界のトレンド」を3つのポイントから考察していこうかと思います。
1. 他業界から金融業界への進出
まず一つ目のポイントとしては、「業界の垣根が薄くなっている」ことが挙げられます。
近年の日本の歴史を振り返ると、金融業界ヘは「決済分野」を皮切りに、他業種からの参入が相次いでいます。
イオンや楽天、セブンイレブンなどは元々小売業界にいましたが、現在では金融業としての存在感が際立っています。
楽天を例にとってみると、つい最近こんな記事がでました。
ご覧いただくと分かるように、楽天は現在では約半分が金融事業となっているのです。
クレジットカードなどの決済、銀行業ともに大きな存在感のある企業となりました。
米国でも大手IT企業のGoogle WalletやApple Payなどは業界横断の好例であり、Amazonもオンラインレンディングサービスを始めたりと、ITと金融の融合は今後も後を絶たないでしょう。
資金決済法による規制緩和
日本に話を戻すと、日本では2010年に資金決済法が制定されました。
この法律により、資金決済法による登録をした者は「資金移動業者」として為替取引が可能になりました。つまり、銀行でなくとも振込や送金のサービスを提供して良いことになったのです。
「1回あたりの取扱金額は100万円以下」、「送金途中にあり滞留している資金の100%以上の額を資産保全する必要がある」などの規制はありますが、サービスを提供するのに銀行業等の免許は不要になったのです。
金融業への参入障壁は依然として高い
この法律によって、他業界から金融業界への新規参入が始まりました。
参入例としては、LINEやGMOなどの大手企業だけでなく、Metapsなどのベンチャー企業なども挙げられます。
ですが、既存の金融業界をディスラプトしているとまでは今の段階では言えないと思いますので、金融業界への参入障壁は依然として高いままと言えるでしょう。
ちなみに銀行業の参入障壁は非常に高く、最低資本金額は20億円以上です。資金移動業であれば、1000万円が最低要履行保証額なので、最低1000万円以上の準備になります。
また、損保市場に目を向けてみても、日本の損保市場は3社の寡占状態であり、合併はありましたが、ほぼ大手の寡占状態は変わっていない状況です。
日本の生保市場も、以前はライフネット生命の出現でオンライン生保が話題にはなりましたが、市場の状態は以前からあまり変わってない状況です。
一方、既に破壊されかけているクレジットカード業界と、送金や融資業務が大きくディスラプトされる可能性のある銀行業界に関しては、今後一波乱あるかもしれません。
2. 資金調達手段の多様化(2017年7月更新)
以前もご紹介しましたが、今後もソーシャルレンディングやクラウドファンディングなどの「オンラインでの資金調達サービス」は日本でも増えていくことが想定されます。
日本では、2011年の震災があったタイミングで「購入型のクラウドファンディング」サービスが始まりました。
最初に参入したのはReady forで、現在ではCampfireやMakuakeなとが有名です。
クラウドファンディングは金融サービスに位置付けられていますが、きちんとした規制が今までなかったため参入障壁は高くなく、次々に新しい購入型のクラウドファンディングサービスが生まれました。
新聞社のクラウドファンディング参入
クラウドファンディング領域における近年の注目すべき動きは、2015年に朝日新聞さんという大企業が参入を表明したことです。
新聞社であることもあり、圧倒的なメディアとしての発信力があります。
紙面を使った特集を組むことで、これまではリーチできなかった層の人達にも情報を届けられる可能性も秘めており、既存プレイヤーの大きな脅威となりそうですし、このオンラインでの資金調達という領域が、より盛り上がっていくことが想定されます。
なお、オンライン融資の詳細についてはこちらのソーシャルレンディングに関する記事をご参照下さい。
株式投資型クラウドファンディングの規制と影響
そしてこのクラウドファンディング領域に関しては、2015年5月29日に金融商品取引法が施行されて「株式投資型クラウドファンディング」が解禁されました。
そこでの「規制と影響」を備忘録的にまとめておきます(クラウドファンディングの種類についてはこちら)。
主な規制
- サービス提供側:第2種金融商品取引業の登録と最低資本金1000万円(匿名組合型クラウドファンディング業務は500万円)が必要
- 投資家側:1つの企業への投資金額は50万円が上限。株式の売却は可能だが、売却先は企業関係者の投資グループに限る
- 借り手側:調達金額は1億円未満に限る
主な影響
- ベンチャー企業が資金調達として利用する
- 個人投資家が新しい投資商品として利用する
- 証券会社がクラウドファンディング事業に参入する
ちょっと纏めてみましたが、個人的には日本ではあまり株式型のクラウドファンディングは流行らないと思っていますので、影響もそんなに無いような気はしています。
主なサービス
日本でもついにファンディーノの登録が始まりましたので、未上場企業への株式投資にご関心のある方は実際に利用されてみると良いかもしれません。
ファンディーノでは投資先企業によっては税制面での優遇などもあるようです。
ただ、もちろん未上場企業への投資となりますので、購入後は上場やM&Aされるまでその株式を売却できなかったりはします。
ですので、中長期でベンチャー企業の支援をされたい方などに向いているように思います。
ICOによる資金調達の出現
個人的には、株式投資型クラウドファンディングよりも、法規制がどうなるのかは分かりませんが、近い将来日本でも「ICO」による資金調達が出てくるのかもしれないなと最近は思い始めたので追記しておきます。
ICOとはInitial Coin Offeringの略で、要は仮想通貨による資金調達手法です。
プロジェクトベースで新しいコインを発行し、そのコインを世界中の投資家からビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を通じて購入してもらう事で資金調達を完了させます。
最近はビットコインなどの仮想通貨バブルと言われているそうですが、個人的にはまさに2017年は日本における仮想通貨元年なような気もしています。
今後ますます多様な仮想通貨を簡単に購入できる「ビットフライヤー」などの仮想通貨の取引所は、日本でメジャーなものになっていくような気がしています。
なお、ICOの詳細については別記事「ICO(Initial Coin Offering)の特徴と面白さ」を書きましたのでご参照ください。
3. ブロックチェーンテクノロジー
最後に、今後の金融業界を考える上で外せないのが「ブロックチェーン(Block Chain)」の話です。
ブロックチェーンはビットコインなどの非中央集権(中央に管理者がいない形)を特徴とする「パブリックロックチェーン」と、管理者が存在した閉じた空間の「プライベートブロックチェーン」がありますが、ここでは一旦ブロックチェーンは「改ざん不可能なデータ記録の技術」としておきます。
ブロックチェーンテクノロジーは、近年世界中の大手金融機関でも注目されている新しいテクノロジーです。
パブリックロックチェーンの何が凄いかというと、ネットワークに全ての取引履歴が記憶される仕組みになっており、そのため通貨発行者(銀行や政府)がいなくとも、通貨がどこからどこに移動したかを記録から把握できるので、結果として中央に管理者(銀行や政府)がいなくても成立するような仕組みになっている点です。
銀行はいらなくなるのか?
上記のかいつまんだ説明だけを読むと、「じゃあ銀行はいらなくなるの?」という疑問が生まれますが、現実ではそうはなりません。
現在このブロックチェーンには、世界中の大金融機関が一大プロジェクトとして取り組みを始めています。
米国ではゴールドマンサックスやモルガンスタンレー、日本では三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行など、大手20以上の金融機関が参画しています(追記:2017年時点では一部の金融機関が抜けました)。
彼らがブロックチェーンテクノロジーに熱心に取り組む主な理由は、金融機関内部のコスト削減と業務効率化のためだと考えられます。
つい先日ではこんなニュースも出ています。
大手金融機関の取り組みが送金や決済などの銀行業を変えていくのか、それともTransfer Wiseのようなスタートアップが銀行ビジネスを破壊していくのか。
今後もこの国際送金の領域は要注目です。
ブロックチェーン関連の推薦図書2冊(2017年7月更新)
ブロックチェーンに関しては、2017年にも分かりやすい本が2冊出ましたのでご紹介します。
初心者向けにはコインチェックの取締役COO大塚氏が執筆された「いまさら聞けない ビットコインとブロックチェーン」がおすすめです。
初心者でも何も知らない状態からでもサクッと読めます。
中級者向けにはブロックチェーン革命
中級者向けには、元官僚で一橋大学名誉教授である野口氏が執筆された「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」が読みやすいのでおすすめです。
技術者でなくてもわかるように書かれています。