シリコンバレーの伝説のコーチである「ビルキャンベル」について書かれた「1兆ドルコーチ」の感想です。
この本は以前の上司がおすすめしていた本なのですが、特に事業会社でマネージャーをやっている方には役立つ一冊なのではないかなと思います。私自身、今の会社で中間管理職をしていますが、人材育成を考える上でこの本はとても役立っています。
以前ご紹介した元マッキンゼーの伊賀氏が執筆された「生産性」もとても良い本でしたが、部下の生産性を高めて成果を上げるといった内容で、少しコンサル寄りの考え方だったようには思います。
一方、一兆ドルコーチでは「あらゆるマネジャーの最優先課題は、部下のしあわせと成功だ」ということなどが書かれています。両方合わせて読むと、それぞれ違った視点を得られて良いのではないかと今は考えています。
- 正しいプレイヤーを見つける採用基準について
- 1兆ドルコーチに書かれているマネージャーの仕事とは
- マネージャーと社長の違い
- マネージャーは絶対的な存在でないが故に人間力を磨く必要あり
- 事業会社とコンサルティングファームのマネージャーの違い
- 令和時代の組織創りと働く意義について
正しいプレイヤーを見つける採用基準について
一兆ドルコーチでは、採用すべき人材について以下のような紹介がされています。
人に求めるべき重要な資質は、知性と心だ。
つまり、すばやく学習する能力と厳しい仕事を厭わない姿勢、誠実さ、グリッド、共感力、そしてチーム・ファーストの姿勢である
これを読んで思い出したのが、How Google Worksの「ラーニングアニマル」と、確かDeNAの南場さんがどこかで言っていた「ビジネスにおける誠実さ」です。
学び続ける意欲のない人や、ビジネスにおける誠実さがない人、チームワークの姿勢がない人などはやはり採用し辛いでしょう。
ちなみに1兆ドルコーチの他の箇所でも、以下のような記載があります。
ビルは4つの資質を人に求めた。まずは「知性」。
これは勉強ができるということではない。さまざまな分野の話をすばやく取り入れ、それらを繋げる能力を持っていることだ。ビルはこれはを「遠い類推」(かけ離れたものごとを繋げる発想)と呼んだ。
そして「勤勉」であること。「誠実」であること。そして最後に、あの定義のむずかしい資質、「グリッド」を持っていること。打ちのめされても立ち上がり、再びトライする情熱と根気強さだ。
このような資質が採用する上で大切というのはその通りですし、人材採用に関しては「採用基準」や「WorkRules」など、色々と名著があります。ただ、個人的には「自分より優秀なメンバーを採用する」というのも一つ大切なポイントのように思います。
もちろん、スキルや経歴偏重主義で採用してもうまくいかない場合がありますし、人間性の面でも良いと思える人を採用すべきではあります。ですが、もし候補者の方が自分よりも若ければ、「自分と同い歳になった時に、自分よりも優秀で活躍していそうか?」などを個人的には見ています。
1兆ドルコーチに書かれているマネージャーの仕事とは
一兆ドルコーチでは、「マネージャーの仕事は議論に決着をつけることと、部下をよりよい人間にすることだ」と書かれています。
この点に関して、部下をよりよい人間にするためには、まずそもそもマネージャーがよりよい人間でなければならないでしょう。これは、マネージャー自身も成長し続けていかなければ、メンバーがより一層成長することもないというのと似ています。
部下をよりよい人間にすることというのを成長と捉えると、会社員であれば、新しい機会に挑戦することで成長が得られ、成果を出せばまた新しい機会に恵まれるといったサイクルがあるようには思います。マネージャーはメンバーに適切な機会と裁量を与え、適切な目標設定を行い、そこに向かってメンバーが進んでいくことが、その人自身の成長に繋がるようには思います。
ただし、自分で会社をやっている場合は、事業の成長が社長自身の成長に直結するでしょう。そのため、事業を成長させることができなければ、自分自身の成長もなくなってしまいます。
マネージャーと社長の違い
私自身が実際に自分で会社をやっていた時と、今の企業でマネージャーをやっていて感じる違いは、考える範囲のような気がしています。
考える範囲というのは、マネージャーの場合は、役割を振られると、基本的には自分の部署の担当範囲で考えがちになってしまうということです。
社長であれば、当然ながらプロダクトやセールス、マーケティングなどの領域以外にも、ファイナンスやコーポレート、採用や組織全体の設計など、幅広い領域に想いを巡らせながら、会社を経営していく必要があります。
一方で、例えば営業部の部長が総務部のことを日頃考えているかというと、あまりそうではないことが多いかと思います。
当然ながら、自分の担当領域については他の人よりも深い知見を持っていなくてはならないのですが、それに加えて他領域の部分にまで目が行き届いていたり、実際に会社全体を良くしていくための行動ができている人は稀です。
ただし、そのような視野の広さや経営目線を持った方が、上の人から重宝されるのはどこの会社でも同じでしょう。
さらに、もし仮に社長よりもその会社のことを考えていて、実際に成果を出しているような方がいるのであれば、その人が社長をやった方が会社は成長していくはずです。
マネージャーは絶対的な存在でないが故に人間力を磨く必要あり
また、オーナー企業の社長は絶対的な存在だけども、事業会社の管理職は絶対的な存在ではないです。
以前Twitterでも同じようなコメントを見たのですが、オーナー企業で働いている社員にとって、社長は絶対的な存在であることが多いです。基本的には、社長の独断と偏見で様々なことが決められます。
一方で、事業会社の管理職というのは、特に絶対的な存在ではありません。当然ながら自分の上には社長がいたり、グループ会社の場合は親会社があったり、外資系企業の日本法人であれば本社の許可が必要であったり、全てを自分一人で決めることはできません。
このような中間管理職の場合は、少なからず社内の調整をしながら最適な打ち手を打つ必要があることも多く、そこでの調整力や人間的魅力のようなものが、人を動かすためにはより重要になって来るように感じています。
事業会社とコンサルティングファームのマネージャーの違い
「ハック思考 最短最速で世界が変わる方法論 (NewsPicks Book)」に書かれていた話だったかと思われますが、どこかの役職やポジションについたタイミングで、育てられる人を育てる必要が出てきます。
例えば、社内の組織が「社長-役員-部長-課長-担当」みたいな構図だとすると、部長は課長を創る必要があり、役員は部長を創る必要がある、といった感じです。
しかし、私が以前在籍していたコンサルティングファームの場合、パートナー-シニアマネージャー-マネージャー-コンサルタント-アナリストみたいな序列にはなっているものの、特にシニアマネージャーがマネージャーを育てるみたいな環境や文化でもなかったような気がしています。
また、シニアマネージャー以上は案件を取れないとクビになってしまうこともあるので、新しい案件を取れたり、案件を継続させられたりできるセールス力が、昇進すればするほどより重要になってくるように見受けられました。
そのため、例えば極端な話、ピープルマネジメントができなくても昇進する人もいますし、実際に高い地位についている人を見ていても、人として魅力的かどうかもそこまで昇進に関係ない気もしていました(もちろんコンサルディングファームにも人として魅力的な人はたくさんいます)。
一方で、事業会社においては、スキル+人心掌握が重要な要素のように感じています。
優良企業と呼ばれるような日本の大企業ほど、人としてどうなのか、という要素が上に上がるには大切なようにも見受けられます。
魅力的な上司であり続けなければ良い組織は創れず、良い組織を創るためには人としての器を広げ続ける必要もあるのでしょう。
令和時代の組織創りと働く意義について
私が学生の頃というのは、学生起業はまだまだ珍しい時代でした。今でこそ同世代の学生起業家が、長い年月をかけてIPOする時代になりましたが、学生だった当時に起業するという選択肢を選べた人はかなり珍しかったかと思います。
また、銀行やコンサルで働いていた時も、ある意味では画一的なエリートが多く、異端児ほど早い段階で卒業して違う世界にいってしまう印象がありました。
一方で、今の時代は、元起業家の会社員であったり、会社員をやりつつ自分のビジネスを持っていたり、すでに働く必要がないほど資産を持っているけども何かしらの意味合いを求めて会社で働いていたり、色んな人が会社に集まってくる時代になったように思います。そして、実際に今私が働いている会社にはそういう方も多く、個人的にはそういう方々がメンバーとして組織にジョインしてきてくれることは嬉しい限りです。
もちろん、給与のために働く、今の生活水準を落としたくないが故に働くという考え方もありますが、それ以上に、なぜ今自分はここで働いているのか、他の選択肢がある中でなぜここに居続けるのか、その意味を明確にしておく重要性が、今の時代はますます増していると改めて感じました。
ひふみ投信の藤野さんが「10億円もらったら何しますか?」という問いを本でよく投げかけています。この問いに対する回答が「今の仕事を辞める」だった場合、その人が本当に求めているものは仕事にはないのかもしれません。