経営の教科書を読みましたので、本書を読んで印象に残った部分を書いておきます。
本書では、戦略とは、経営目標を達成するための大枠としての「やること」と「やり方」であると定義されています。
経営を語る上で戦略の部分は必ず必要になってくると思われますが、さらに本書では最初の方で「理念・ビジョン」の重要性についても書かれていました。
個人的にはこの「理念・ビジョン」について、そもそもそれらがなぜ必要なのかを、経営者自身の言葉で明確に述べられている点が斬新でした。
- 理念・ビジョンの徹底・必要性について
- 経営者が考えるべき最重要課題のひとつ
- サラリーマンとビジネスマンの違い
- メンターを持つことの重要性について
- 社員の人材育成や採用、社員に対して気をつけるべきこと
- 経験によって本に書かれている内容の手触り感や解像度が上がる
- 実行者である経営者
理念・ビジョンの徹底・必要性について
なぜ理念・ビジョンの徹底・浸透が必要なのか、本書では以下のように理由が述べられています。
- 多様化時代の求心力
- 理念の共有による社員の誇りと自信
- ステークホルダー(利害関係者)からの信頼と尊敬
- すぐれた人材を採用しやすくなる
- 業績が向上する
5番目は結果として業績が向上するという話ではあるものの、 本書では一応理念・ビジョンがある企業の方が業績が向上するということも定量的に説明されていました。
理念やビジョンなき会社でも、事業が成長していくことは、世界中の企業で起こりうることでしょう。但し、それなりに社会的に影響力が大きい会社になってくると、様々なステークホルダーが出てきたり、多様な社員が集まってきたりと、結果として「理念・ビジョン」を明確に作らなければいけなくなってくるのではないでしょうか。
今では素晴らしい理念・ビジョンを掲げる世界的な大企業であっても、当初からそのような明確で素晴らしい理念やビジョンが社内にあった訳ではないでしょう。企業の成長の過程で、理念・ビジョンが洗練されていったと考える方が自然なようには思われます。
経営者が考えるべき最重要課題のひとつ
著者がジョンソン・エンド・ジョンソンの社長に就任したとき、当時の会長から二つのことをいわれたと紹介されています。
ひとつは「業績を伸ばすこと。ただしいかなる場合であっても、論理的に問題があることは絶対にやってはならない」ということ。
そしてもうひとつ、このときにいわれたのが次の言葉だった。
「これからの数年間で、たとえあなたが社長としてどれだけ立派な業績をあげたとしても、社長職を辞すときまでに自分の後継者を育てていなければ、私はあなたに五十点以上の点数はつけられない」
一つ目は、高い論理感が紹介されています。「正しいことをやる」と言うのはいつの時代も重要なことなのだなあと感じます。
また、もう一つが後継者の育成です。自分がその会社を離れても問題なく回る組織を創るためには、組織的な仕組み創りができている点に加えて、明確に「この人になら任せられる」と言う後継者を育てている必要があります。
自分が担っていたポジションを担える人がいない状態で抜けてしまうと、短期的には問題なくても、中期的には組織的に綻びが出てきてしまう可能性が高いです。
ユニクロやソフトバンクなどの大企業に限らず、多くの中小企業でも、この「後継者問題」があります。実際に私が銀行で働いていた時も、後継者問題に頭を悩ませるオーナー社長は多かったです。
例えば、すでに社長は創業者以外の人が担ってはいるものの、実際の意思決定は創業者が行なっているということもよくありました。オーナー創業者が完全に後任に会社の経営を任せるというのは、とても難しいことなのだろうなあと思います。
サラリーマンとビジネスマンの違い
本書では「サラリーマンとビジネスマンの違い」として以下が紹介されています。
サラリーマンとは、会社に仕事をしに行く人である。何時から何時までと、決められた時間に仕事をする。ときには残業することもあるが、とにかく専ら仕事をしに行くことを旨とする人である。
これに対し、ビジネスマンとは会社に結果を出しに行く人を指す。正しいプロセスを踏みながら、きちんと結果を出すことのできる人、これがビジネスマンである。
私自身はここを明確に区別して考えたことがありませんでしたが、結局のところ、最初のマインドがサラリーマンの人はいつまでもサラリーマンのままであり、ビジネスマンになることはないのでしょう。
メンターを持つことの重要性について
本書では、メンターについてもアドバイスが書かれています。良かった部分を抜粋しておきます。
三人のメンターを持て
知識や情報を教えてくれる人のことを「先生」という。これに対して、生きる勇気や人生の知恵を授けてくれる人のことを「師」と呼ぶ。
つらいとき、何かに行き詰まったとき、その人の胸に飛び込んで行くと「こうやってみてはどうか」と導きを含めたアドバイスをくれる存在。社員には話せない、家で話せば愚痴になりかねない問題を打ち明けられる存在。それがメンターである。
これは私の実感だが、少なくとも三人のメンターを持てれば、人生で大きくつまずくことはない。
あなたが成功することが、メンターにとっての「テイク」
「メンターはどうやって探したらよいのですか」
メンターを持ちなさいという話をすると、特に若い人からこんな質問を受けることがある。私の答えは至って単純で、「これはと思う人がいたら、とにかく連絡してみなさい」ということにしている。
ある程度以上の経験と年齢を重ねた人間にとって、若い人からアドバイスを求められるということは、とりあえずうれしいものである。現役社長は多忙なのでなかなか時間を割いてもらえないかもしれないが、定年後ともなれば、比較的時間をとってもらえいやすくなる。
こちらから提供できるものがない場合、なかなか連絡してメンターを頼むというのは勇気がいりますが、メンターした人が成功することが、メンターへのお返しになると言うことでした。
社員の人材育成や採用、社員に対して気をつけるべきこと
他にも、本書では以下のように社員の人材育成や採用、社員に対して気をつけるべきことなども紹介されています。個人的に学びが多かった部分を残しておきます。
人材育成
- 人を育てるための、最も効果的な方法は任せることである(ピーター・F・ドラッカー)
採用面接で訊くべき4つの質問
- あなたはなぜ、いまの会社を辞めてここに入りたいと思うのですか?(転職動機)
- これまでのビジネス経験の中で、あなたが成し遂げた最大の功績は何ですか?(結果が出せる人材かどうか)
- これまでのビジネス経験の中で、あなたが犯した最大の失敗は何ですか?その失敗経験から何を学びましたか?(チャレンジ精神と学習意欲)
- あなたの人生の長期と短期の目標は何ですか?具体的に述べてください(目標志向の人であるかどうか)
社員にとって悲しいこと4つ
- 会社から何を期待されているかがわからない
- 結果は出したが、それがどう評価されているかがわからない
- 成果が評価・処遇にどう結びつくかがわからない
- 将来の方向性が見えない
社員にとって悲しいことと言うのは、裏返せばその逆をやるべきだと言うことかと思います。組織がどこに向かっているのかを明確に示し、各人への期待のすり合わせを行い、頑張った人がきちんと報われる組織設計をすべきなのかなと思った次第です。
経験によって本に書かれている内容の手触り感や解像度が上がる
ジャックマーが、「人生は何を手に入れたかではなく、何を経験したかで決まる。」と言っていましたが、経験は奪われることのない財産です。
本書でも「修羅場」経験についての重要性が書かれていましたが、より大変なことに取り組まないと、経営者としての成長はないのでしょう。
経営に関する本というのは、私自身も経営コンサルタントの仕事をしていた時に色々と読んでいたことがありました。しかしながら、当時は概念的なものを理解することができても、手触り感や自分ごと感というのがあまりなかったなあと感じています。
自分で会社をやっている最中であったり、一度社長を経験した後の方が理解できるようになることも多い気はします。
さらに、実際に日々いろんな課題を解決しながら前に進んでいく組織に自分がいて、その組織で日々発生する事象と照らし合わせながら読むことで(自分ごと化することで)、より一層本の内容の解像度は上がるのだと痛感しました。
実行者である経営者
本書では「胆識」という単語が紹介されています。
「ものを知っていて(知識)、それに自分の考え方が加えられて(見識)、なおかつ、リスクを恐れずに『決断』し、決断を『断行」に移すことのできる能力」。これが、陽明学に出てくる「胆識」である
意思決定と実行はセットと言えます。経営者と評論家の違いは、実行者であるかどうかでしょう。
これを読んで、組織的な課題が発生した際には、それがなぜ発生しているのか、経営者がきちんと根本の原因を理解し、課題解決のために適切な打ち手をスピーディーに打つことが大切だと改めて感じた次第です。
一口に経営者といっても、数人規模の会社の経営者と、数百人規模、数千人規模、数万人規模の経営者では、求められる要素は異なるとは思われます。
本書もどちらかというと、スタートアップというよりも大企業の経営者向けに書かれたものなのかもしれませんが、ベンチャー企業の経営においても十分に役立つ良書なのではないかなと思いました。