金融とテクノロジー雑記

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経営トップの仕事と戦略参謀の仕事の書評 | 元マッキンゼー稲田将人氏の著書

経営トップの仕事の書評

経営トップの仕事――戦略参謀からの50のアドバイス」「戦略参謀の仕事――プロフェッショナル人材になる79のアドバイス」を読みました。

著者の稲田将人氏は元マッキンゼーで、アオキインターナショナル、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城、ワールド、卑弥呼などの経営改革に携われた方です。

以下、本書で印象に残ったところを記載しておきます。

目指すは「組織が自律的に事業の発展に取り組む企業文化づくり」

本書では最後の方に、組織が自律的に事業の発展に取り組む企業文化づくり、具体的には

  • フェアネスの徹底:「企業においては、エゴイズムの放置が悪を生む」を公言
  • 憑き物側近の排除
  • 文化が企業を支える状態を目指す

を実現するために行うべきこととして、以下の6つが紹介されています。

  1. 「見える化」の文化づくりの推進と「躾」
  2. 組織はPDCAを廻す単位で組み立てる
  3. 事業・組織の実態を知る
  4. トップを支える本部・参謀体制づくり
  5. 自身の上に「お天道様」を置く
  6. 「承継」には周到な準備を行い「育て」、厳格に「選ぶ」

個人的に印象に残ったのは「見える化」の文化づくりの推進と「躾」」の部分です。ここでは例えば、以下のような取り組みが必要とされています。

  • 経営目線から「見渡し」の良い状態づくり
  • 事業で廻っているPDCAの「見える化」を推進
  • すべての帳票、報告資料は、「CからPへの思考の流れ」を現したもの

組織の「見える化」というのは、多くの組織で課題になっていることなように思われますが、中々現場の情報や重要なデータは綺麗に社内で整理されていないのが現実ではあります。

それらを適切に経営が意思決定できるような形で整えていくことも、後述する参謀役の重要な仕事の一つとして挙げられています。

組織の目指す姿

「組織」は事業の発展に伴い、多岐にわたり、より専門家が進む業務を手分けして分業するためのものです。特に事業の発展段階は、組織の急拡大が求められます。

この時に経営側が、いかに組織に自律的に判断させ、機能するように育てたか、この一点だけでその後の事業と発展と安定性には、天と地ほどの差がつきます。組織の目指す姿は、以下の二つに集約できます。

  1. 「攻め」の方法も含めた業務の手順を組み立て、それを進化させ続ける
  2. 個々人の問題解決力とマネジャーのマネジメント力を正しく鍛え、上下方向で組織力の強化を行う

いかに自律的に機能する組織を創れるかというのは、非常に大事な観点だなと思いました。

マネジャーの本当の能力とは、マネジャーの仕事とは

マネジャーの本当の能力は、そのマネジャーがいなくなった後も、そのパフォーマンスが維持される状態を作れるかに尽きる

マネジャーの仕事とは、部下に対して今の仕事の意義を説き、現場のメンバーの問題解決を支援することで前向きなエネルギーを創り出すこと。結果的に全ての業務の生産性を高めることです

企業にとって本当に重要なのは、組織全体としてのパフォーマンス向上です。

マネジャー層が担当部門のパフォーマンスを上げる能力を持つことが最も重要なはずなのですが、一見社内の教育に熱心に見える企業でも、個人のスキルアップの座学ばかりに予算配分が偏重されがちです

マネジャーの仕事は、組織として成果をあげることと、自分がいなくなっても成果があがる組織をつくることというのは正にでしょう。

ビジョンとはどういうものでなければいけないのか

「ビジョン」とは、会社が目指すゴールであり、自分たちが進みたいと思っている方向性を、言語化やチャート化して「見える化」したものです。

そこには企業としての必然性と、自分たちがそれに向かって進むことに意義を見出せる、誰でも共感できる価値観が必要です。

「ビジョン」は、トップが押しつけるものではなく、社内での共感を得られるものでなければならないという点です

完全にワンマンのオーナー企業の場合は、トップダウン的にビジョンが決まっても機能することもあるのかもしれません。

ですが、そうでない場合はやはりミッション、ビジョン、バリュー策定時には社内での共感は重要な要素になるのでしょう。

採用すべき人材と採用後の育成について

本来、企業が採用したいのは、分析やロジカルシンキングに優れた人材よりも、自ら組織を率いて戦うことも十分にできる「軍師」タイプの人材です。

ウェルチは自身のコピーではなく「クローンづくり」を意識したといいます。自分と同じ判断を強いるのではなく、自分と同じような思考ができるように訓練を行いました。

上記を読むと、最近CEOを退任したアマゾンのジェフベゾスも思い出しました。

戦略参謀の仕事、果たすべき役割

続いて、「戦略参謀の仕事」で、印象に残った点をメモしておきます。

本書については上記の「経営トップの仕事」と合わせて読むことで、例えば組織として経営企画部門がどのようにあるべきかを、より深く理解することができるように思います。

本書では参謀業務のテーマとして、例えば以下が挙げられています。

  • 全社視点での課題の特定と、それらの優先順位の明確化
  • 部門をまたぐ全社視点、事業視点の課題プロジェクトの推進役
  • 各部門が健全に組織のPDCAを廻し、事業力を高めるための適切な検証と方針立案の支援と指導
  • 事業の現状の適切な把握のための情報収集と分析、戦略や方針の起案

そして、参謀役が果たすべき役割として以下の3つが紹介されています。

  1. トップの意思決定の精度を上げるための、事業方針に関する現状分析と起案(トップの意思決定、判断の精度を上げるために、事業運営や事業そのものについての現況分析(必要な情報の収集と、そこからの意味合いの抽出)と企画、提言を行う役割)
  2. 社内の神経系統づくり(市場や社内の実態についての情報が経営層にまで適切に共有されると共に、経営の意思を各部署に展開するための指示・報告系統が正しく機能し、さらに各部署が自律的に判断して動ける状態をつくり上げる仕事)
  3. 課題の優先順位付けと課題プロジェクトへの対応(新規のITシステム導入や物流対策など、トップ視点にて捉えて取り組むべき、様々な経営課題を明らかにすること、そして必要に応じた特命プロジェクトへの対応)

非常に綺麗にまとまっており、とても参考になりました。

2週間に1回程度は、全社視点の課題についてトップと確認を行う

組織の情報はナンバー2に集まるものです。

週1回、あるいは2週間に1回程度、少なくとも2〜3時間はしっかりと時間をブロックして、全社課題について社長ととことん議論を行うようにしています。

共有して議論すべき内容は、例えば、

  • 現時点での上位課題の重要性、緊急度合いなどの優先順位(A、B、Cなど)付け
  • その見直し、変更とその理由の明確化
  • 現状対応中の課題の進捗状況
  • 新たに浮かび上がってきた課題と、その緊急性
  • まだ潜在的な課題ではあるが、中長期的に必要なテーマ

今後このようなサイクルをつくることは、自分も取り組んでいきたいなと思います。

戦略は精度の高い初期仮説であり、実行してPDCAを回せるかどうかが重要

「戦略さえ手にすれば成長軌道に入っていける」などただの妄想

戦略だけを手にしても成長軌道入れは、まず無理でしょう。なぜならば、御社の場合は戦略の実践、舵取りを行うために必要となる、組織のPDCAを廻す能力が、今、この事業で必要な精度、レベルに達していませんから

実行されない戦略には何も価値はない。施策については、必ず、効果と難易度の2軸による評価を行う

上記のような指摘は最もであり、たまに「戦略」という言葉をまるで「魔法」のように使う人がいますが、大抵の場合「魔法」なようなものは存在せず、淡々とやるべきことをやることにより成功を手にしている場合が多いようには思われます。

「戦略」はどんなに精緻に作り上げても、ただの精度の高い「初期仮説」

新たな挑戦となる取り組み企画、とりわけ挑戦的な「戦略」には、必ず「読み切れていないこと」が含まれているということ

「戦略」を一度策定してそのままに放置していくことの危険性を再認識しました。

「戦略」は、事業を理解している当事者が自らの手で策定すべきもの

戦略において重要なことは、実行責任者がその「実践」や成功をイメージできること

人は、自分がイメージできたこと以外は行動に移せないもの。戦略を成功させるには、実行責任者が「なるほど、これならやってみよう」と腹から思える状態をつくる

個人的には、戦略というのは、それなりに賢いと言われる人達が考えれば、大体そうだよねといった内容になるように思っています。

それよりも重要なのはその戦略の実行であり、組織を実際に動かしてPDCAを回せるかです。そして、それをできる人材は本当に市場に少ないように思います。

企画とは何か、分析とは何か

他にも、本書では企画とは何か、分析とは何かと言った基本的なことも説明されており、会社の経営企画部門などで働く際にはとても役立つ内容になっていました。

企画と呼ばれるものはすべて、「何を、なぜ、どのように行う」を明らかに記述して初めて成立するものです

分析はまず、比較によりギャップや変化の存在と大きさを明らかにし、その理由を探ることから

分析の際に行う、基本となる比較は、大きく分けると次の3つと説明されています。

  1. 全体と個:全体平均に対して個別の支店や店舗の数字の比較を行い、「なぜ、その支店が全体平均とは異なる数字を上げているのか」を追いかける
  2. 個と個:競合と自社、個別店舗同士を比較し、売上や客数、客単価などの差がなぜ、発生しているのかを追いかける
  3. 時間軸:前年同期比の比較、あるいは折れ線グラフによる推移変化の「見える化」を行い、その変化がなぜ起きたのかを明らかにしていく

サイエンスは言語化への挑戦

最後に、本書で一番印象に残った部分が以下です。

世の中には言語化されていないことの方が圧倒的に多く、そもそもサイエンスは言語化への挑戦である

サイエンスという単語を聞くと、数字やファクトといったものをイメージしていました。ただし、よくよく考えてみると、例えば属人的になっていた業務を言語化してマニュアルを作り、誰でもできるようにすることなども、サイエンスの一つなのでしょう。

そのため、サイエンスとは言語化への挑戦であるといった説明はとてもしっくりきました。

日々目の前の仕事に追われていると、中長期的な組織の発展のために言語化する作業、仕組み化する作業というのはなかなか取れなくなってしまいがちです。

但し、組織が大きくなるにつれてサイエンスは必要になってくるため、業務や知見を言語化する時間は定期的にとって取り組む必要があるなと思います。