元マッキンゼーの小森哲郎氏の著書である「企業変革の実務 いつ、何を、どの順番で行えば現場は動くか」を読みました。
小森氏はアスキー、カネボウ、建デポの社長を歴任され、ユニゾン・キャピタル株式会社マネジメントアドバイザーなども務められています。
本書は個別企業の再建に限ったものではなく、普遍的に利用できる企業変革の実務について体系的にその手法がまとめられています。
実際の現場でも活用できるフレームワークが多数紹介されていますので、私の現在の仕事にも役立つ良書でした。本書で印象に残った部分を抜粋してメモしておきます。
優れた企業の3つの特質
まず本書では、優れた企業は以下の3つの特質を持つことが紹介されています。
- 業績指向でありながら、透明性が高く、顧客を向いたオープンな風土
- 戦略・組織などの建て付けのみならず、オペレーション(業務方法)での優位性(オペレーションエクセレンシー)を有している
- 環境変化に対応できる自律的な課題解決能力を組織能力(スキル)・体質として保有している
そして、上記の3つの特質が、成果面として、高業績の持続と優秀人材の輩出(企業価値と個人の市場価値最大化)を生み出すと説明されています。
これを読んで、確かに業績も良く、〇〇マフィア、元〇〇と呼ばれるような人々を輩出している企業は、優れた企業と呼べるように思いました。例えば、日本の企業であればリクルートやサイバーエージェントなどが思い浮かびます。
そこで働くことで自分の市場価値を高められるような会社という観点では、外資系のコンサルティングファームや投資銀行、GAFAMのような外資系IT企業やP&Gなどの外資系消費財メーカーなども思い浮かびます。
ちなみに、優れた企業で一定期間働き、その優れた企業の仕組みを意識的に学んだ人材は、その次に転職した企業においても、過去優れた企業で学んだ成功している仕組みを活用することができるように思います。
もちろん、優れた企業での事例をそっくりそのまま別の企業に当てはめることは難しいため、その企業に合った形で成功の仕組みをカスタマイズしながら適応していく作業が必要にはなるとは思います。ですが、成功した企業のイメージを持っているというのは、他の会社で働く上でも重要だと感じています。
CEOとしてのコミットメント例
続いて、CEOのコミットメント例としては以下4つが紹介されていました。
- Leadership:1人ひとりが主役となりうるような機会提供や動きやすくするための環境設定を確実に進める
- Enterepereneurship:特定の課題解決をリードするのみならず、経営の職人として教えられる知見やノウハウは全て提供する(ただし質問してもらうことが前提条件)
- Aspiration:株主に対しても組織に対しても等距離を保ち、ベストなものを創り上げることを追い続ける
- Practitioner:全店訪問、全社個別面談など、現場視点を保ち続けるためのプログラムを実践する
これはCEOや経営者を見定める上で大事な指標だなと感じました。
2の「知見」や「ノウハウ」をどれだけ持っているかは、CEOの経歴などが大きな要素となってくるとは思われます。一方で、他の1、3、4の要素については、CEOの努力次第でなんとでもなるもののように思いました。
なお、以下の「CEOの運営基本方針書構成ドラフト例」は、2の知見やノウハウの一つかと思います。CEOが「どんなことを考え、今後どんな方針で舵取りを行っていくのか」という質問に答える内容として役立つものとして紹介されています。
CEOの運営基本方針書構成ドラフト例
1. 当社にとってのチャレンジとは何か
- 当社がこれまでに成し遂げてきたものは何か
- 現在置かれた市場、競合、自社の状況はいかなるものか
- 今後の環境変化は何をもたらしうるか
- その結果、当社にとっての勝機はどこにあるか
- 「攻め」、「守り」という構図で捉えるとどうなるか
- 克服すべき重要課題は何か
- 事業展開面では何が課題となり得るか
- 組織運営面ではどうか
2. 目指したい姿、目指すべき姿はいかなるものか
- 企業の姿としては何を目指すのか
- 事業面ではどういう戦略ビジョンを掲げるのか
- 獲得すべきスキルや確立すべき体質は何か
- 意思決定のあり方、コミュニケーションのあり方はいかにあるべきか
- 具体的に主要会議体の運営スタイルはどう変化すべきか
3. 今後の経営の舵取りの際に大切にしたいこと、して欲しいことは何か
- 日々どういう心構えであって欲しいか
- どのように判断して行動して欲しいか
- 特にマネジメント層においては何を期待しているか
上記に限らず、優秀な経営者はこのようなフレームワークを、何かしらの理論を元に自分なりにカスタマイズして複数持っているように思いました。
オープンな課題解決に向けた意識づけの例
また、オープンな課題解決に向けた意識づけの例として、以下の3つが紹介されていました。これらを繰り返し社内に伝えていくことが大事とのことでした。
- 職位や立場を超えて、問題に「謙虚」になろう
- やれると信じ、「前向き」になろう
- 1人でやるのではなく、「いろいろなものを外から」学ぼう
個人的には、特に3の意識が強い企業は成長を続けていくように感じています。この意識づけを見て、ふと以前読んだGLOBIS知見録を思い出しました。
松本:基本的に、私は必要とされるケイパビリティに今の自分が届いていないという状態がずっと続いています。
目標を常にアップデートし続けているからです。それがすごく重要なのかな、と。
そのうえで、目標をアップデートしたとき、それを実際に達成したことがある人を調べて、その人に会いに行くなりして、アドバイザーになってもらったりしています。
たとえば、先般はオリックスの宮内義彦氏(同社シニア・チェアマン)に当社の社外取締役として入っていただきました
こちらはラクスルの事例ですが、すでに成功している人に話を聞きにいく、すでに自分たちよりも先に進んでいる人にアドバイザーになってもらうというのは、企業が成長していく過程で重要なアクションの一つだと思いました。
ボトルネック人材についての所感
最後に、本書ではボトルネック人材への対処法なども紹介されており、こちらも非常に参考になりました。
企業の変革期や成長期には、必ずボトルネック人材が出てきます。私がこれまでに見てきたボトルネック人材の特徴としては、「事業成長」ではなく、「自分自身」に意識が向いていることが多いように感じます。
多くの企業では、いわゆる8:2の法則で、優秀な2割の人材が企業成長を支えています。この優秀な人材の邪魔をしないだけでも、組織としてのパフォーマンスが上がったりもします。
また、チームには必ずしも飛び切り優秀な人材が必要という訳でもありません。パフォーマンスの低い人を取り除くだけで、チーム全体のパフォーマンスが高くなったりすることもあります。
個人的に何よりも重要だと考えているのが、他のメンバーにマイナスの影響を与えるような人材が組織にいないことだと考えています。
組織にマイナス影響を与えるような真のボトルネック人材は取り除いていかなければ、企業変革を成し遂げることや、大きな企業成長が達成されることはないのだろうと、本書を読んで改めて感じた次第です。