読んだ時に感銘を受けた「仮想通貨革命」という本の著者である野口悠紀雄氏の最新本が先日遂に発売されたので、早速購入して読んでみたのですが、最近読んだ本の中ではピカイチに面白かったです。
ビットコイン界隈の人達にとって本書は既知の内容が多いのかもしれませんが、ネット上に散らばっている情報が綺麗に整理されており、前提知識の無い人でも理解できる平易な言葉で分かりやすく解説してくれているという点において、非常に価値のある本のように思います。
メタップス佐藤氏の「未来に先回りする思考法」を読んだ時にも似たような印象を抱いたのですが、「頭脳明晰な人とは正にこういう人の事を言うんだろうなあ」と感じた本でもありました。
- ブロックチェーンとフィンテック
- ブロックチェーンとは?
- インターネットでできなかったことと、これからできること
- ビットコインの脅威と、テクノロジーの進歩に遅れる法規制
- 個人的にとても面白いと思った部分3つ
- 著者が予想する今後の日本のシナリオ
ブロックチェーンとフィンテック
今回はそんな訳で自分の備忘録のためにも、本書で特に勉強になった部分を中心に書いていこうかと思います(長文です)。
まず、本書の冒頭で、著者は「在来技術型のフィンテック」と「ブロックチェーン技術利用型のフィンテック」を明確に区別しています。また、「パブリック・ブロックチェーン」と「プライベート・ブロックチェーン」も切り分けて説明しています。
そして、冒頭からしっくりきた部分としては、在来技術型のフィンテックは生活を便利にするのでしょうが、ブロックチェーンを用いたサービスとは違って、そのような技術からはパライダムの変革をもたらすような出来事は生まれないということです。
性質の違いなのでどちらが良い悪いという話では無いですし、個人的には在来技術型のフィンテックもブロックチェーン技術利用型のフィンテックにも純粋にビジネスとしての関心があるのですが、確かに革命と呼ばれるほどの出来事は、(パブリック)ブロックチェーンによってしかもたらされないモノなのかもなあ、とも思った次第でした。
ブロックチェーンとは?
本書ではブロックチェーンを「電子的な情報を記録する新しい仕組み」とし、管理者が存在せず自主的に集まったコンピューターが運営しているにも関わらず、行なっている事業が信頼できる点と、そこに記された記録が改竄できない点を重要な点としてあげています。
また、別の記載箇所では、ブロックチェーンを「公開された台帳で取引などの記録を行う仕組み」と定義し、以下の4点が従来のシステムとの違いであるとしています。
- 記録が公開されること
- 分散的な仕組みで運用され、管理者が存在しないこと
- そのため、運営コストが低く、システムがダウンしないこと
- 事業主体である組織を信頼する必要がないこと
改めて分かりやすい説明でしたのでメモしておきましたが、これに加えて、著者はインターネットでできなかったことがブロックチェーンでできるようになり、それを含めて真のIT革命であるとしています。
インターネットでできなかったことと、これからできること
インターネットでできなかったこととは、「貨幣など経済的に価値あるものを送ること」と「信頼性を確立すること」であり、この二つの点をブロックチェーンは克服しているとしています。
この説明は、個人的には非常にしっくりくる部分がありました。
前作の「仮想通貨革命」においても、仮想通貨による「低コストでスピーディーで信頼できる国際送金」については触れられていましたが、確かにこのようなトランザクションはブロックチェーンなしには実現し得ないでしょう。
また、著者はその他の可能性としてマイクロペイメント(特にウェブを通じるコンテンツの有料配布)についても触れています。
マイクロペイメントについては界隈でも有識者の方々が度々触れられている気がしますが、確かにビットコインなどの仮想通貨は少額の取引にも向いているように思います。
ビットコインの脅威と、テクノロジーの進歩に遅れる法規制
ビットコインなどの仮想通貨がもたらすメリットを紹介する一方で、著者はビットコインが幅広く普及することが世の中にもたらす脅威についても記載しています。
具体的には以下の4点です。
- 徴税に支障が出る(捕捉できない取引が増大する危険性)
- 違法な取引やマネーロンダリングが発生する可能性がある
- 貨幣供給量のコントロールによる経済活動のコントロールができなくなる
- キャピタルフライトが起こる可能性がある(日本国民が日本円でない通貨に乗り換えるなど)
僕自身もビットコインの普及はこのような脅威をもたらすようには思いますし、世界各国の法規制はテクノロジーの進歩に追いついていないというのが現状でしょう。
余談ですが、個人的に法規制に関しては、本書でも触れらていた「ICO(クラウドセール)」に関する部分が各国で今後どういう扱いとされるのか気になっています。
個人的にとても面白いと思った部分3つ
ついでに、本書でとても面白いと思った部分を3つほど書いておきます。
資金調達の民主化
1点目は、ICOによる「資金調達の民主化」の可能性です。
これは言ってしまえば、資金調達時に銀行や証券会社やVCやクラウドファンディング事業者のような第三者の存在が不要になりうるということだと思うのですが、その適応範囲は企業だけでなく個人にも広がりうるという点が極めて面白かったです。
例えば、学業のための奨学金や老後のためのリバースモーゲージが、個人でICOで調達できるようになる世界が実現する可能性があるということです。
なんとも画期的な世界ではありますが、恐らくこのような世界が現実のものとして近づいてきたら、個人的には「利用できるほどの知性や行動力がある人(少数)と無い人(大多数)」という2極化現象が日本には起きるような気がしています。
DAOによって、人はしたい仕事ができる
2点目は、「分散型組織で人はしたい仕事ができるようになる(?)」という話です。
これは例えば、個人営業のレストランはロボット化するのではなく、帳簿をつけたり、税務申告したり、ウェブに広告をだす作業はDAOが行い、主人は料理を作ることに専念できるようにもなるというものです。
つまりは、「これまで経営者兼労働者であった人が労働者としての仕事に専念できる」という話で、これは面白いな〜と思った次第です。
AIやロボットの発達によって店舗が無人化する未来も十分考えられますし、最近では遂にアメリカにはロボットのカフェなども出てきました。
ですが、人間の「感情」を踏まえると、顧客側にも「接客サービスは人間に受けたい」「人間が作った手料理を食べたい」というニーズはどうしても残り続けるような気がしていました。
そんな中、DAOは「人が本当にやりたい仕事に専念できる」ような手助けもできるのかもしれないと感じ、これは正にワクワクする世の中だなと思った次第でした。
予測市場は政治にも影響を及ぼしうる
最後の3点目は「予測市場を用いて政治的決定プロセスを改革できるかも(?)」という話です。
これを書くと長くなりそうなので詳細はぜひ本書を読んで欲しいのですが、要は報酬によって政治的無関心を解決したり、第三者勢力の候補者に票がむく動きを作り出せたりする可能性があるという話です。
この部分で、正直今まで理解が曖昧だった予測市場に関する面白さに気づくことができ、更にはブロックチェーンは政治の領域にも影響を及ぼしうるということが理解できたので、大変勉強になりました。
著者が予想する今後の日本のシナリオ
最後の方で、著者は「ブロックチェーン革命がもたらす今後の世界のシナリオ」をいくつか紹介しています。どれも興味深いのですが、そこには必ず「法律」が関わってきます。
本書でも「法律」については度々触れられており、改正された資金決済法や銀行法は、銀行に都合の良いように改正されているというニュアンスの内容が記載されていました。
個人的にはこの部分は非常に共感できる内容でした。銀行が主導権を握る世界を、何か(誰か?)が覆すのは至難な技な気がしています。
著者はそんな民間の銀行が主導権を握る世界を、巨大企業が支配するプライベート・ブロックチェーンの世界というように描写もしています。正直この世界はあまりエキサイティングではない世界な気はしますが、未来がどうなるのかはまだ分かりません。
ただ、本書を読んでいて痛切に感じたのは、日本では既得権益に守られた人々の考えやパワーがとても強いということです。
著者も本書において、ブロックチェーンの技術革新を止めるものは「組織の硬直性、規制、人々の考え方そのもの」と書いているのですが、自分の過去の金融業界での経験からもまさにそう感じてしまう部分がありました。
金融の領域は歳をとった人々がとてもパワーを持っていますし、日本人らしい「既存のモノを変えたくない」特性も業界には強く現れているように感じます。
更に、人は歳を取れば取るほど考え方も固まっていってしまいます。人口が減少して若者がどんどん減って高齢者ばかりになる日本には、今後ますます保守的な人々の割合は増えていくような気もしています。
例え技術的には可能な進歩がそこにあったとしても、人々の感情に引っ張られてリバタリアン的な世界は訪れなかったり、現在若者が人口の半数を占めるフィリピンなどのASEAN諸国とは、全く異なる社会が日本には到来する可能性もあります。
まあここで悲観してもどうしようもないですし、未来がどうなるのかは誰にも分からないので、何れにせよ来たるべき未来に個人として備える上では、このようなタメになる本を読むことはとても大切だなと改めて思った次第でした。