最近とある会議で「経済的な堀」の話が出てきたので、改めて堀の概念を丁寧に説明してくれている「千年投資の公理」を少し読み直してみました。
投資という観点でも事業を考える上でも勉強になる一冊でしたが、印象に残った箇所をいくつか記録しておきます。
株式市場で利益を上げるには
本書は株式投資をする方などにも役立つ本ですが、どうすれば利益を上げられるのかという考え方は以下にまとまっています。
- 長期間にわたって平均以上に利益を上げることができる企業を探す
- その企業の株価が本質的価値より安くなるまで待ってから買う
- 企業価値が低下するか、株価が割高になるか、さらに優れた投資先が見つかるまで、その銘柄を保有する。保有期間は、月単位というよりも年単位で考える
- この手順を必要に応じ繰り返す
なかなかこの手順ができないのが難しいところですが、短期売買するよりも長期で何もしなかった方が利益が上がったというのはよくある話のようにも思われます。
株にせよ仮想通貨にせよ、基本的には取引をすると手数料も税金もかかってしまいますので、専業トレーダーでもない限りは「年単位」で考える投資の方が、精神的負担も少ないのかもしれません。
たいていの場合、投資家は、投資先を自分がよく知っている分野(例えば金融サービスとか、ハイテク株とか)に限定する方が、遠くまで網を投げるよりもうまくいく
これもまさにその通りで、自分がよく知らない領域には投資をしないというのも、損をしないためには重要な要素な気がします。
未上場企業への投資の場合は「知らない領域を学べる」という特典もあるので少し違うかもしれませんが、あまりよくわからない領域に投資をすると、不安になってバイ&ホールドすることもできなくなってしまいます。
経済的な堀とは?構造的な優位性について
経済的な堀は、以下の4つによってもたらされると本書では解説されています。
構造的な優位性とは、① 無形資産、② 顧客の乗り換えコスト、③ ネットワーク効果、④ コストの優位性の4つがもたらす
具体的には以下です。
- ブランド、特許、行政の認可などの無形資産を持つ企業は、ライバル企業かなわない製品やサービスを販売できる
- 販売している製品やサービスが顧客にとって手放しがたいものであれば、乗り換えコストが少しでも余計にかかることによって顧客離れを防ぎ、価格決定力を企業のほうに与える
- ネットワーク経済の恩恵を受ける一部の幸運な企業には、長期間ライバルを締め出すことができる強力な経済的な堀がある
- 最後に、生産過程や場所、規模、独自のアクセスなどによって製品やサービスをライバルよりも安い価格で提供できる企業にはコスト上の優位性がある
2つ目はTo B向けのSaaSなどが該当するのかなという感じがしますが、例えばTo C向けであっても、給与振込や家賃の引き落としで使われている「銀行口座」などは、スイッチングコストが高いです。
そして、一般的に誤解される堀として、本書では以下の例が挙げられています。
優れた製品、大きな規模、効率経営、優れた経営陣などが競争上の優位性を長期間もたらすことはない。これらはあれば良いというだけで、これだけで十分ではない
個人的にも経営陣というのは持続可能性がないので、そこまで人に対する過度な期待は禁物なのではないかなと感じています。
もちろん優れた経営陣がいるに越したことはなく、創業オーナーがそのまま経営している会社の方が、投資先としては期待値が高いです。
本書で他に印象に残った箇所は以下のあたりです。
事業を守ってくれる経済的な堀がなければ、ライバル企業がすぐに押し寄せて利益を侵食していく
ライバル社の目的が収益を上げることでなかったりした場合、堀は危険にさらされることがある
経済的な堀があるがゆえに参入障壁は築かれるものの、例えばライバル社が他の事業も保有しており、参入する領域で収益が上がらなくても問題ない場合、専業の会社は戦い方を考えないといけないように思われます。
成功している企業を分析する重要性について
ビジネスマンであれば多くの人がやっていることかとは思われますが、最近はなんでこの企業が成功しているのか、どうすれば企業は成功するのかについて考えることが多くなりました。
少し前にマーケティングについてもっと学ぼうと考えてブログタイトルを変えたものの、結局のところ個人的にはマーケティングという区切りで学ぶことよりも、成功する企業の分析に関心が高いことに気がつきました。
今後とも金融・投資・成功しているテクノロジー企業について学ぶことはやめないだろうということで、ブログのタイトルも元に戻しました。
考えてみれば、銀行員時代は主に財務の観点から企業分析を行っていました。過去の財務諸表などからの与信判断が主ではありますが、業界特性などを考慮した上でその企業の将来性も検討していました。
コンサルティングファームでも国内外で先行しているベストプラクティスを調査し、その成功事例をクライアントに適した形で使います。
そして起業家になっても成功事例について調べ、まずはそれを真似して徐々にオリジナリティを出していくという手法が、結局は一番硬かったようには思います。
再び事業会社に戻って働いていても、事業的な観点のみならず、組織設計の観点でも、他社の成功事例を調べて真似してみることは役立つことが多いです。
他社の成功事例の全てが全て自社にそのまま当てはまる訳ではありませんが、同じようなフェーズで成功している企業を調べて学び、それを少しカスタマイズしてやってみるというプロセスは、今後も役に立つのだろうなと最近は改めて感じています。