金融とテクノロジー雑記

勉強になった本の感想など

ワールドクラスの経営の感想 | 日本企業が本気でグローバル経営に挑むための基本の書

ワールドクラスの経営

ワールドクラスの経営」を読み返しましたので、参考になったところを改めて記載しておきます。

例えば、時価総額数十億円〜数百億円規模のベンチャー企業が、いきなり時価総額数兆円のグローバル企業の経営を参考にしようとすると、そこにはGAPも大きく存在します。ですが、将来的なあるべき経営の理想像を知るという意味では、参考になる部分も数多くあるのではと感じています。

ワールドクラスの経営とは

ワールドクラスの経営」では、以下の基本行動を実践し、そして結果(社会的と経済的の双方)を出し続けているグローバル企業を、ワールドクラスの経営ができている企業と定義しています。

  1. 世界中のキャッシュが数えられる
      海外子会社も含め、どの会社のどの口座にどの通貨で現預金がいくらあるのかをほぼリアルタイムで把握できている
  2. 世界中のタレントが見えている
      どの法人にどのようなスキル・経験を持つ人材が何人いるのか、有能な人材を発掘、育成、登用するために必要な情報がグローバルで整備されている
  3. 自社の方向性を明確に示せている
      経営を取り巻く諸環境や自社の強み(自社らしさから技術まで)、そして注力する事業について、マネジメント層が意識合わせをし、実際の行動と示している

非常にシンプルですが、日本のみで事業をやっていたとしても、なかなかこのような基本行動をできていない企業も多いのが実情なのでしょう。特に、方向性を示したとしても、実際の行動がその方向性ときちんとアラインできているのか、というのは重要なポイントだと思いました。まさに言うはやすし行うは難しです。

ワールドクラスの経営ができている企業と多くの日本企業の違い

また、多くの日本企業とワールドクラスの経営ができている企業の違いとして、以下の特徴が挙げられています(前者がワールドクラスの経営、後者が多くの日本企業)。

  • ルーチン(常日頃から読むことで、変化を察知する一貫した把握)⇄ イベント(中期経営計画などのタイミングでかき集める、会議体ごとに視点のばらつきも)
  • 俯瞰(複雑に絡み合う事象の関連を理解する、不都合な真実から目を逸らさない)⇄ 断片(自社の都合にサポーティブな情報を選択、想定の甘さにつながる)
  • 判断(経営判断の重要なインプットという位置付け)⇄ 資料(報告資料の冒頭を飾るという位置付け)

中期経営計画策定や更新のタイミングなどで、市場の情報をかき集めるというのはよく発生してしまうことのように思いますが、理想はワールドクラスの経営のように、常日頃からルーチンとして情報を俯瞰し、経営判断に活かすことができている状態なのでしょう。

特に集中して情報を収集すると、自社に都合の良い情報を集めがちになってしまうというのは、その通りかと思います。また、報告資料に拘りすぎると、いつしか資料作成それ自体が目的になってしまい、あくまで報告資料は「経営判断の重要なインプット」という位置付けを忘れてしまうことも往々にして発生しうる事態です。

コーポレート部門が果たす役割とCxOの4つのコアポジション

「ワールドクラスの経営」では、いわゆるコーポレート部門が果たす役割とは、リソースアロケーション(経営資源の配分)であり、これ自体が企業経営、経営戦略と紹介されています。

具体的には、「企業としての存在価値の証明、そのための経営目標の達成に向け、お金、人材などの限られたリソースを、自社の強みや価値観に連なる事業機会に対して、グローバルで最適に配分していくことが主たる仕事」とのことです。

また、強いコーポレートをしっかりと機能させるためには、企業経営を取り仕切るCEOを筆頭に、ファイナンスをリードするCFO、HRをリードするCHRO、グローバルでのリスクマネジメントに対する大きな貢献が期待されるGC or CLO、これら4つのポジションがコーポレートをデザインする上でのコアとなるとしています。

そして、これにもう一つ加えるならば、自社の技術的な強みの源泉を把握するCTOが、企業価値と事業価値を高める上で重要とのことです。

ちなみにこのような4つのCxOの重要性については、取締役会の仕事の著書であるラム・チャランの他の書籍である「Talent Wins(タレント・ウィンズ) 人材ファーストの企業戦略」においても語られています。Talent Winsにおいては、特にCEO、CFO、CHROのG3が重要と語られています。

超長期と短期の両利き

最後に、ワールドクラスの経営においては、短期志向と長期志向の両利きであると紹介されています。

例えば、実際には「コーポレートは超長期」、「事業部は超短期」というような棲み分けをしており、長期を担保することがコーポレート部門の存在意義の一つとのことです。

事業部門は短期の業績の追求も当然行う必要がありますので、どうしても性質上、目線が短期になりがちなところはあるかとも思います。そんな中で、コーポレート部門が長期目線を担保し、会社の経営を支えていくというのは理にかなっているとも言えます。

本書は上記以外にも、ファイナンス組織のミッション、HR組織のミッション、リーガル組織のミッション、テクノロジー組織のミッションなども紹介されており、主にコーポレート部門側で働く方にとってとても参考になる書籍のように思いました。