金融とテクノロジー雑記

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三位一体の経営の書評 | 中神康議社長のみさきの黄金比とは

経営

みさき投資株式会社の中神社長の「三位一体の経営」を読みました。

前作の「投資される経営 売買(うりかい)される経営 (日本経済新聞出版)」もとても勉強になったのですが、今回の「三位一体の経営」も、投資や企業経営を考える上でとても参考になりました。

特に、売上や利益、利益率などのPL面ばかりに囚われるのではなく、ROEやROICという「利回り」を高くキープできる経営こそが、株式価値を高め、経営者だけでなく、従業員、株主も合わせて豊かになる経営という話が印象に残りました。

売上や利益が高い企業ほど株価が上がるわけではない

売上高利益率や営業利益成長率が高かったグループのリターンは、なんと、それ以外のグループよりも低かった

ROE、ROICのどちらの図を見ても、その長期水準の高さと株式累積リターンはきれいな相関が見られます

過去10年という長期間において、ROEやROICという「利回り」を高くキープできた経営とは、「複利の経営」に他なりません。

「額」でもなく「率」でもなく、「利回り」を長く続ける「複利の経営」こそが、株式価値を高め「みなで豊かになる経営」につながっていく

あえて赤字経営を行って急成長を目指すスタートアップ企業には当てはまらないのかもしれませんが、黒字経営を行って成長を目指す上場企業に長期投資を行う場合は、この観点で考えた方が良いのでしょう。

利回りを生むだけでなく、長期間維持するための障壁とは

障壁

そもそも長期投資家が認める「障壁」は、数が極めて限られており、大きく分けると三つしかないと本書では説明されています。具体的には以下です。

真の障壁1:コスト優位ー供給面での障壁は低く、寿命は短い

  • コスト優位の障壁①:低原価、但し、資源の独占は長続きしない
  • コスト優位の障壁②:独占的な技術ー内部開発した技術でないと障壁にならない

真の障壁2:顧客の囲い込みー需要面の障壁は高く、少し長持ちする

  • 囲い込みの障壁①:習慣化ーなぜか同じものを使いづけてしまう
  • 囲い込みの障壁②:スイッチングコストー他製品への切り替えが負担
  • 囲い込みの障壁③:サーチコストー他を探すのが面倒

真の障壁3:規模の経済との組み合わせー最強で、最長不倒の一手

また、規模の経済を効かせるための二つの留意点として以下が紹介されています。

留意点1:競合他社との「相対的」な差が重要

「規模」なるものは、あくまでも競合企業との「相対シェア」の差によって効いてくるものです。「絶対シェア」で見るべきではありません

留意点2:「顧客の囲い込み」とセットでなければならない

お客さんを囲い込めていない単なる規模型プレイヤーが相手なら、追いつく側のプレイヤーとしては莫大な投資をして設備を作り、さらに広告宣伝費や販売促進費にお金をふんだんにかけてガンガン安売りをすれば、お客さんはこちらになびいてくるはずです 

これを読んで思い出したのがPayPayです。

PayPayはスマホ決済では後発でしたが、上記のように大量の広告宣伝費+店舗導入へのセールスを投入し、あっという間に日本市場でスマホ決済のシェアを奪いました。恐らく日本で最も最速最大に成長したフィンテックサービスと言えるでしょう。

そしてこの成長の背景には、他のスマホ決済プレイヤーが顧客を囲い込めていなかったこともあるのかなと思いました。

また、その後に本書では、障壁づくりの必要条件として以下2点が紹介されいます。

儲けのメカニズム1 呆れるほどのコストを投入する

プロフィットが長く続いてほしいと願うなら、誰もがやりたくない面倒くさい苦労に、他の誰もが呆れるほどコストをかけて取り組みない、そうすればそのコストが「余人を持って代えがたい価値に変わる。

そういった価値は大げさに語らなくてもちゃんと伝わるからお客さんの支持も長く続いて、採算が持続するんだよという理屈です

儲けのメカニズム2 腰を抜かすほどのリスクを取る

常識的なコストのかけ方で長く続く超過利潤が出るなら、競合は必ず追随してくるでしょう。常識的なリスクテイクで長く続く超過利潤が出るとしても同じことです。

でも、それが明らかに非常識なレベルだから、競合は追随してこない。追いかける気にもならない。諦める。

これもPayPayの100億円キャンペーンなどが当てはまるのかなと思いました。 

資本生産性を表す三つの指標とみさきの黄金比

エクイティ

続いて、本書ではみさきの黄金比という概念が紹介されています。

みさきの黄金比は、「ROE ≧ ROIC ≧ ROA ≧ WACCになっているか?」を確認する経営の簡便なリトマス試験紙として説明されています。それぞれの指標の意味は以下のように解説されています。

  • ROAー全ての資産を使ってどれだけ利益を上げたか
  • ROICー真水の投下資本からどれだけ利益が生まれたか ROAの分母である総資産から、事業に使われていない資産や買掛金などの運転負債を差し引いて、事業に使われている真水の投下資本だけを分母に用います。分子にする利益も、事業から生まれている利益のみ「事業利益」とします
  • ROEー株主資本からどれだけ利益を生み出したか
  • WACCー負債と株主資本の比率によって、負債コストと株主資本コストを加重平均し、企業の資金調達に伴う平均的なコストを計算した指標です

みさきの黄金比については、東証のHPにも資料がありましたので、そちらを引用しておきます。

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https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/2019_Nakagami.pdf

売上高や利益などの額やそれらの成長率だけでなく、みさきの黄金比の観点でも上場企業のデータを確認してみると、また違った角度からその企業を捉えることができるように思いました。

企業価値を大きく左右する重要議案

会議

また、本書では、取締役会において企業価値を大きく左右する重要議案は、以下の6つぐらいしかないと紹介されています。

  1. 中期経営計画などの経営計画
  2. 大規模なM&A
  3. 撤退を含む事業ポートフォリオの再構築
  4. 大規模な投資(設備投資、研究開発費、IT投資など)
  5. 資本政策、BS最適化、株主還元
  6. 意思決定プロセス/ガバナンス機構の設計

どれも確かにと納得できる内容です。

ジャックウェルチの5つの質問

質問

最後に、本書で参考になったジャックウェルチが事業部長に聞いていた5つの質問も記載しておきます。具体的には以下です。

  1. 市場はグローバルにどう動いていて、今後数年間にどう変わるのか?
  2. 競合はこの流れを変えるべく、直近三年でどんな動きをとってきたのか?
  3. こうした流れや動きに対して、直近の三年であなたは何をしてきたのか?
  4. 向こう三年で競合が取りうる行動のうち、一番恐るべき可能性は何か?
  5. 以上すベてを考慮したとき、最も有効な対抗策は何か?

どれも重要な質問だと思いますが、1を予想するのはなかなか難しい部分もあるので、今後も変わらずに重要なものを考えることも大事だなとも思います。