金融とテクノロジー雑記

勉強になった本の感想など

突き抜けるまで問い続けろの書評 | ビズリーチ創業ノンフィクションを読んで

ビジョナル 本 書評

突き抜けるまで問い続けろ――巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡」を読みました。

本書はハイキャリア転職で有名なビズリーチの創業から、ビジョナルとして東証マザーズに上場するまでの内容が描かれています。創業者の南氏が全て書いている本という訳ではなく、ライター/編集者がインタビュー等をしながら組織の成長の軌跡が記載されており、一部創業メンバーのコメントなどが掲載されているような形式です。

色々と事業成長、組織成長の観点で参考になる箇所が多かったので、いくつか抜き出してまとめておきます。

意図的に面白いことをしていかないと盛り上がらない

人生を客観的に一つのストーリーとして見ている自分がいる。死ぬ間際になって全部振り返るとしたら、意図的におもしろいことをしていかないと盛り上がらない。僕は割と真面目な人間なので合理的に物事を判断するけど、その合理性を越えないと人生はおもしろくならない

これはまさにその通りで、人はその人の経験以上の人にはならないというのはあるような気がしており、意図的に挑戦して面白い経験を積んでいかないとと改めて思いました。

事業づくりに大切な要素

事業づくりの出発点は、自分が解決したい課題の本質を見つけることからだ。それをいかに早く的確に探り当てられるかが事業の成否を決める。そのために小澤は「要素分解」という言葉を頻繁に使った 

「大切なのは、課題の本質であるセンターピンを見抜くことだ」

「どんな取り組みも、スプレッドシートに落として考えられなかったら意味がない。頑張った成果を測定できなければ、何のために努力しているのか分からない。とにかく測定できる方法を考えてみろ」

最終的に本書では、「問いを立てるフレームワーク」は、以下の3つに集約されると説明されています。

  1. 自分の問題意識に引っかかる課題を見つける(トリガーを引く)
  2. 課題を徹底的に調べて要素分解をし、本質を見極める(センターピンを見つける)
  3. 本質的な課題解決の方法を考えて端的な言葉や数字で表現する(打ち出し角度を決める)

事業を成功させる人というのは、すでに成功している事例を徹底的に研究し、何が一番大事かを理解した上で取り組んでいるように思いました。

採用したい人の口説き方

「世の中をこう変えていきたいから、一緒にやりませんか」と論理的に説明されても、首を縦に振る人は少ないだろう。だが「あなたがいなければダメなんです」と感情に訴えられると人は心が動かされる。

こちらの文章を読んで思い出したのが以下のインタビュー記事です。

当たり前のことだけど、入ってもらうことが重要なのではなくて、入って活躍してもらうことが大切ですよね?正しい情報を得て自分で決めたのだという納得感がないと、なかなかエンジンがかからないと思うのです。

あとは、「あなたが乗っている船よりもこっちのほうがいいわよ」という言い方じゃなくて、むしろ「助けてくれ」と。「この船は沈むかもしれないから、あなたの力で助けてくれ」という言い方をしますね。

南場さん、DeNAも「肉食採用」なんですか? | 肉食採用AtoZ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース 

また、本書では人が辞めてしまう理由についても端的に説明されています。

究極的に人に選ばれる会社になるには、どれだけ個人の市場価値を高める機会を提供できるかにかかっている。ビズリーチを通して10年以上、人材業界を見てきた結論でもある。

メンバーに成長機会を提供できない限り辞めてしまうというのは、非常に納得できました。自分自身も今の職場での成長機会がないとなると、他のところに成長機会を求めるように思います。人に選ばれる会社になるには、価値を高める「場」を用意するということが重要なのでしょう。

B to Bサービスにおけるプロダクトとセールスの両輪

「マイクロソフトがなぜここまで成長しているかといえば、優れたプロダクトもさることながら、それを届ける営業組織が強いからだ。マイクロソフトだけでなく、セールスフォースドットコムやオラクルなど、企業向けで強い会社はどこも、高い製品力と強い営業組織の両輪で業績を伸ばしている」

これはTo Cのプロダクトグロースにおいて、マーケティングとプロダクトがセットで重要ということと同じようなことかと思いました。

良いものだけどもマーケティングが下手ではプロダクトは売れないし、マーケティングがどんなにうまくてもプロダクトがお粗末な場合、その成長はやはりどこかで止まってしまいます。プロダクトもセールスもマーケーティングも、結局は改善し続けることができる組織が強いのでしょう。

目指すべきビジョン

ビジョン

「将来はどう変わるか分からないのだから、目指すべきビジョンを今から定めたくはない」「仮に『この事業領域に私たちは進みます』と宣言したとして、時代が変わればやっぱり違う方向に取り組みます、と言わざるを得ないかもしれない。そうすれば、ウソをつくことになってしまう。全面に立って引っ張る南にそんな格好悪いことはさせたくない」

 

「課題をどんどん解決していくこと自体がビジョンなんじゃないか。一つのビジョンに固執する集団ではなくて、あらゆる社会のゆがみを正すような、そんな大きな構想を持つべきではないか、という話になっていった」

 

ほかの企業のように、ビジョンを一つのビジネス領域で捉えるのではなく、「僕らがやりたいことはこれだ」という行為を掲げる。すべての課題を可能性と見て、それを次々と実現すること自体がこの会社の最大の特徴である。

 

思考の末、小西は「新しい可能性を、次々と。」というグループミッションを提案した。領域を限定せず、あえて行動を表現するイメージから辿り着いたフレーズだった。 

このような考え方は、一つの事業領域に止まらずに事業を展開していこうとする企業にとって参考になる考え方なように思いました。 

成長する会社と停滞する会社の3つの違い

成功

本書では、成長する会社と停滞する会社の3つの違いが紹介されています。具体的には以下の3つです。

1. 変化への柔軟性

競争環境が激しく変わる中で、その瞬間瞬間に機動力を持って自律的に動けたり、変化に合わせて自社を再定義できたりと、自ら変わり続ける能力を持つことが、会社の成長の大切な要素となる。

反対に、会社が機動力を持って変われる組織でない限り、働いている人にその力身に着かない。どんな状況でも自ら変化して、活躍できる人材にはなれないのだ。「そこで働いても自分の市場価値が上がらないと気づけば、社員はその会社からどんどん辞めていく」と南は予言する。

2. 生産性の高さ

言い換えればそれは、働いた時間ではなく、成果を重視して会社が社員を評価できるかということだ。個人が自分に投資する時間を会社が奪わないということでもある。「急速に変化する時代には、会社が提供できる学びには限界がある。

仕事中は仕事から学び、仕事以外の時間も自分に投資するという概念を持たなくてはならない。時間と成果の概念を理解しておくことは、選ばれる会社であるためにはとても重要なことだ」と南は考える。

3. 会社に明確な理念があること

最後は、会社に明確な理念があることだ。自分たちの会社が何のために存在しているのか。社会にどんな価値を提供するのか。

「人が会社を選ぶということは、本質的にはその会社の理念に共感することに等しい。優秀な人ほど、その理念を実現しようという思いで会社に加わるようになる」と南は説明する。 

ミッション・バリュー・クレド

ミッション

最後に、参考になったミッション、バリュー、クレドの考え方です。

「ミッションは、自分たちの存在意義が何かということ。バリューは、大切にする価値観、すなわち採用基準。クレドは行動指針、すなわち意思決定に迷ったときに依って立つ判断基準。これらを再定義することで社員の目指すべき方向を統一した」

ちなみにビズリーチの以前のミッション、バリュー、クレドは以下とのことでした。

ビズリーチのミッション

  • インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく

ビズリーチのバリュー

  • Work Hard, Play SUPER Hard
  • 価値あることを、正しくやろう
  • 全員が創業メンバー

ビズリーチのクレド

  • できる理由からはじめよう
  • お客様の感動にコミットしよう
  • 逆算→突破→展開→仕組化
  • 巻き込み、巻き込まれよう
  • マッハGo!Go!
  • 最高の仲間と歴史を創ろう

今のビジョナルのミッションとバリューは、公式サイトでは以下になっています。

ビジョナルのビジョン

  • 新しい可能性を、次々と。私たちは、インターネットの力で、 時代がもたらす様々な課題を、 次々と新しい可能性(ビジョン)に変え、 世の中の革新を支えていく。 「社会にインパクトを与え続ける」 その志や事業のもとに仲間が集まり、 新しい仕組みやムーブメントを生み出すことで、 本気で実現したい未来へと加速させる。

ビジョナルのバリュー

  • 価値あることを、 正しくやろう
  • 変わり続けるために、 学び続ける
  • お客様の本質的課題解決
  • その行動で、ブレイクスルー
  • 事業づくりは、仲間づくり

改めて本書を読んで、ビジョン、ミッション、バリュー、クレドの策定は時間をかけてやっていくべきであり、経営理念がない会社の長期的な存続は難しそうだと思いました。

ビズリーチも一度策定したバリューなどを、ビジョナルになるタイミングでまたさらに議論した上で変化させています。ビジョン、ミッション、バリューというものは、その時々の会社のフェーズで変わっていくものとして捉えて、今一度会社を経営する上ではこれらは明確にすべきだなと感じた次第です。